一般社団法人 宮城インバウンドDMO(以下、宮城DMO)は、宮城県南の13の自治体(白石市、名取市、角田市、岩沼市、蔵王町、七ヶ宿町、大河原町、村田町、柴田町、川崎町、丸森町、亘理町、山元町)によって、2017年3月に設立された団体です。特に宮城県南への訪日外国人を誘致することをミッションとしています。
今回は、宮城DMOがどのような方法で訪日外国人を集客し、成功を収めるに至ったかを、開示資料を基に解説いたします。
宮城インバウンドDMOのインバウンド対策の取組み例
SNSなど多様なデータを活用した現状把握
宮城DMOは、TwitterやWeiboなどのSNS解析データを含むインバウンド関連のビッグデータを分析し、宮城県南における国籍別の動向(訪問地等)を把握しました。
また、ビッグデータだけではなく、対面調査やWebアンケートも併用し、ターゲットとしている国籍(台湾・タイ)の外国人の詳細な動向(交通機関、訪問回数、利用空港等)も把握しました。その結果、施策の方針検討の際に有用な示唆を得ることが可能になりました。
業種・地域を跨いだ横断的なワーキンググループ(WG)を組成
様々な民間企業や自治体など100人を超える関係者に集め、二次交通・宿泊・観光資源・ツアー造成・プロモーション等のカテゴリー別に計50回以上のWGセッションを実施しました。その結果、プローションを進めていく上で要となるコンセプトの決定、観光ツアー案の造成、認知度向上施策の策定などの様々な成果を得ることができました。
台湾人やタイ人をターゲットとしたツアーの造成・販売・PR
ターゲット国籍を台湾人・タイ人と定め、彼ら向けにツアーを数多く企画し、多くの旅行会社を通じて販売しました。また、海外で行われた旅行博にも複数回出展し、BtoBだけでなくBtoCへのPR活動も強化しました。また、台湾に関しては、宮城DMOに属している各自治体の長が、台湾に出向き、トップセールスも実施しました。
指差し会話シートの導入
6カ国語対応(日本語、英語、タイ語、台湾繁体字、中国簡体字、韓国語)の指さし会話シートの作成・配布や、南宮城の4カ国語対応(英語、台湾繁体字、中国簡体字、タイ)のガイドマップの制作・配布を実施しました。また、導入するだけではなく、関係者への研修を通じて、しっかりと活用方法も浸透させています。
観光コンテンツ磨き上げ
累計1,000人を超える外国人を招聘したモニターツアーを通じて、外国人目線での南宮城の魅力を再発見し、観光コンテンツの磨き上げを実施しました。その結果、サイクルスポーツへの評価が高いことが判明し、今後、サイクルツーリズムをキラーコンテンツの一つとして発信していくことにしました。
メディアへの露出拡大
海外の映画撮影の誘致、動画の作成、多言語SNSの運用、そして、旅行会社・ブロガーなどを招聘し記事制作を行う、いわゆる”Fam Trip”を実施し、認知度向上にも取り組みました。
宮城DMOは上記のような様々な取り組みの結果、昨年度は南宮城エリアで下記のような成果を上げており、一定の成功を収めているといえます。
①DMO直接誘客インバウンド宿泊数:3,815名泊
②インバウンド訪日客の入込総数:3.8万人(前年比160%)
③旅行消費額:5.3億円
インバウンド対策が成功している理由
宮城DMOの取り組みがうまくいっている理由としては、下記の5つの要素があると弊社では分析しております。
訪日外国人数、そして一人当たり消費額を増やそうとした時、多くの企業や自治体は現状把握を飛ばして、プロモーションや受入環境整備などの施策検討からスタートしがちです。施策に飛びつく前に、各種データをしっかり分析することで、現在自分たちのどのエリアに、どの国籍の方々が多く、そして彼らがどのように行動しているかを把握することが可能となります。この現状把握をしっかりと実施することで、より効果的な施策に繋げることが可能になるのはもちろんのこと、後々の効果検証も容易になります。
SNSのデータやアンケートの調査など、データによってそれぞれ強み・弱みがあります。データや調査を複数を併用することで、お互いの弱みを補うことができます。宮城DMOの場合は、SNSデータ、Webアンケート、対面調査、モニター調査などを併用しました。
全国籍に対して全方位的に攻めようとすると虻蜂とらずになりかねません。自地域の観光コンテンツと国籍別の動向を把握した上で、自地域と相性の良い国籍をターゲット国籍と設定することが賢明です。宮城DMOの場合は、台湾人とタイ人を重点的に攻めることで、効率的な集客を実現しています。
地元企業や自治体など、地域のステークホルダーを100名以上巻き込んで、50回を超える議論を行いました。この議論を通じて、しっかりと方針や施策決めを行ったため、全ステークホルダーが納得する自発的なアクションへ落とし込むことができただけでなく、訪日外国人を迎えるために必要な意識改革も実現しました。
日本人が考える地域の魅力と、外国人が考える地域の魅力が全然違ったということはよくあります。そのため、外国人の考える魅力をPRすることで、より効率的に訪日外国人を誘客することが可能となります。
また、日本人にとっては不便とは感じないが、外国人にとって不便と感じる点が明らかになることも多くあり、受入環境整備にも役に立ちます。そのため、外国人を実際に招いて、現地を視察してもらうことは非常に有用です。
まとめ
今回は、設立してからわずか1年余りで、訪日外国人数が前年比で160%と、一定の成果を上げている宮城インバウンドDMOをご紹介しました。
特筆すべきは、”観光ビッグデータや調査データを使った分析と、ワーキンググループを活用した徹底的な議論を通じて宮城県南の「現状把握」をした上で、ツアーの造成、イベントの企画、メディアを使ったPR活動など、様々な「施策」を検討し、しっかりと実行にまで移す”、という、まさに弊社が理想的と考えるインバウンド対策を実施している点です(弊社が理想的だと考えるインバウンド対策に関する詳細な解説はこちら(「インバウンド対策を徹底解説」シリーズ)をご一読ください)。
「現状把握をした上での施策検討・実行」宮城DMOが実践しているこの考え、そして具体的な取組み内容は、DMOや自治体に限らず、企業においても参考になる点が多いのではないでしょうか。
今後もinbound insightでは、日本各地のインバウンド対策の成功事例を紹介して参りますので、乞うご期待ください。
また、inbound insightでは観光ビッグデータを使った「現状把握」から各種ソリューションを活用した「施策検討・立案」までサポートすることが可能です。インバウンド関連で何かしらの課題をお持ちでしたら、是非ともinbound insightまでお問い合わせください。
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